「ハングリーさ」とは、何か具体的な夢や目標を持ち、それを実現しようする気持ちを指しており、不義不徳を許容することでは断じてありません。
夢の現実化に向けて知恵を絞る原動力となりうる「ハングリーさ」。これを持つことにより、「トレーディングのスタイルが、たとえば後先考えない無茶をするとか博打に打って出るという形から、着実性を求める形に変わってくると思う」と氏は結んでいます。
相対している世界のビジネス戦線を感じ取れると、氏が一読を勧めているのが、ジェフリーアーチャーの「ケインとアベル(上)(下)」(新潮文庫)です。この物語には、現状を打破し、自己実現していこうとする対極的な二人の主人公が登場します。
貧しい家庭に育ち、過酷な日々を経てホテル・チェーンを展開する実業家へと成り上がるアベルと、ボストンの銀行家の家に生まれ、その後アメリカでも有数な銀行の頭取になるエリートビジネスマンのケイン。
二人の人生と対立を軸に壮大なスケールで進んでいく物語は息もつかせぬ迫力で、特に潤沢な資金力を背景に企業買収を企てるアベルと、対するケインとの、ウォール街におけるM&Aの攻防からは、大恐慌前後の20世紀におけるアメリカ資本主義の一面が垣間見えます。
のどの渇きを癒すためにウォッカを飲み続けたかのようなアベルとケインの生き様に、リーマンショックで破綻を迎えた今日のアメリカ資本主義への潮流を感じ、重い読後感が残る小説です。