まず、ドルの総合的な強弱を示すU.S.Dollar Indexの週足と日足、そしてシカゴIMMポジションを見ておきましょう。
U.S.Dollar Indexの週足(上がドル高、下がドル安)
http://futures.tradingcharts.com/chart/US/W
(※ロウソク足にするには、画面左のChart FormatのCandlestickにチェックしてください)
U.S.Dollar Indexの日足(上がドル高、下がドル安)
http://futures.tradingcharts.com/chart/US/32?anticache=1332019379
ドル売りが強まっています。
次に、シカゴIMMポジションを見てみましょう。
シカゴIMMのポジション
http://www.cftc.gov/dea/futures/deacmesf.htm
3月11日時点のポジションは、ユーロでは、ユーロロング110,103枚vsユーロショート73,718枚、ネットユーロロング36,385枚(前回ロング23,452枚)です。
尚、同時点の円は、円ロング15,726枚vs円ショート115,082枚、ネット円ショート99,356枚(前回ショート79,709枚)です。
ユーロは、ユーロロングが増えてきています。
円は、円ショートが増えていますが、週後半の円高で減っている可能性はあります。
さて、今週ですが、まずは、本日16日に実施されるクリミア半島でのロシア編入をめぐる住民投票が注目です。
人口の過半を占めるロシア系住民の賛成で承認されるのはほぼ確実とされています。
プーチン大統領は17日(月)にも今後の対応を公表しますが、クリミア半島のロシア編入を認めれば、欧米は直ちに本格的な対ロ制裁を発動する方針で、一段と緊張が高まります。
それに対して、通貨ではドル安が進行しています。
つまり、地政学的にリスクのあるはずのユーロでさえ対ドルで強含み(ドル安)ですし、従来よりのリスク回避の円買いドル売りがドル/円では進行しています。
EUR/USDが買われている理由は、個人的には、他のところにあると見ています。
つまり、2010年~2012年頃の欧州危機の時期に、ユーロから他の通貨への資金逃避が大々的に行われ、中でも十分な受け皿になるだけの市場規模はドルしかなく、大挙してユーロからドルへ資金移動したものと見ています。
それが、2012年7月にドラギECB総裁が「ECBはユーロ存続のためいかなる措置も辞さない」と発言したのをきっかけに、EUR/USDはユーロ高ドル安へ反転し、その後、欧州各国の国債利回りも安定していったことから、ユーロへの資金還流が続いたために、緩やかなユーロ高ドル安が進行してきているものと思われます。
逃げた資金が戻ろうとしている動きですので、結構息の長いものになると思われます。
一方、ドル/円ですが、今やリスク回避は円買いというのが常識ですので、クリミア情勢の緊張は円買いというのは当たり前ではあります。
そして、そのロジックに乗らなければ、儲からないことも確かかもしれません。
しかし、敢えて、申し上げますが、円がそんなに安全通貨なのでしょうか。
貿易収支は恒常的に赤字化し、ここにきて、経常収支も4ヶ月連続で赤字となっています。
赤字の原因が、東日本大震災に伴う原発停止による代替燃料としての液化天然ガスの輸入が増えている上に、ここのところの円安でその輸入額が増加しているということは、十分わかります。
しかしながら、もっと問題にすべきは、スマホなど工業品の輸入が増えていることであり、また輸出競争力が低下している点です。
しかも、日本の財政赤字を個人の金融資産と共に支えていた経常収支の黒字が赤字化するということは、国債の信用力低下、さらには国債市場が不安定となり、結局は円安が到来することになりかねません。
もうひとつだけ申し上げれば、現在、日本は周辺国とギクシャクしていますが、たとえば、今後領土問題で深刻な衝突が発生した場合、地政学的リスクは一気に高まり、安全通貨の円買いどころの話ではなくなるということです。
こうしたことは起きないに越したことはありませんが、身構えておくべきことではないかと思っています。
また、おかしいと思うことは、やっぱりおかしいのですが、それが現実になるのには、思っている以上に時間が掛かるものですから、現在のリスク回避の円買い、あるいは安全通貨の円という考え方もまだ通用するかもしれませんが、冷静な目で見ておく必要があると思います。
今週は、19日にイエレンFRB議長の初の記者会見があります。
どれだけ優秀な人でも、こうした初の大舞台では、ポロッと思わずもらした一言で、マーケットが過剰反応することはよくありますので、どちらかに負荷をかけず、自然体で見ておくべきかと思います。
尚、中国人民銀行が人民元の対ドルの変動幅を現行の上下1%から同2%に拡大しましたが、元安地合いを狙ったもので、表向き開放的な印象を与えながら、少しでも輸出競争力をつけようとするものだと思われます。
この件については、ドル/円相場にはあまり大きな影響はないものと見ていますが、中国の信用収縮懸念については、やはり今のところリスク回避という観点から、ドル/円相場には影響はあるものと思われます。