ケーブル、一日天下
私は、ロンドン駐在から戻ってしばらくして、ケーブル(GBP/USD)の担当となりました。
当時は、東京時間でも、ドル/円のみならず、USD/DEM(ドル/マルク)、USD/CHF(ドル/スイスフラン)、そしてケーブル(GBP/USD)が活発に、D/D(ダイレクト・ディール、銀行間の直接取引)で売買されており、特に、香港・シンガポールの米系銀行が、激しく攻撃を仕掛けてきました。
香港・シンガポールの米系銀行と言いましても、実際売り買いをしているのは、主に中国系のディーラー達で、賭け事の大好きな民族性からか、かなり激しくしかも抜け目なく立ち回り、日本人ディーラーはいい餌食になっていました。
私がケーブルディーラーになってすぐの頃、東京のケーブルディーラーを集めたパーティーがあり、いろいろな銀行の日本人ディーラーと親しくなりましたが、異口同音に香港・シンガポールにはいじめられているということでした。
そこで、親しくなったディーラーとは、それ以降もコンタクトを取り合っていましたが、そのうちのある銀行とはそれまでケーブルで相互にD/Dをしていなかったため、お互いに助け合う意味でD/Dを始めようじゃないかと約束しました。
そんな翌日、朝から繰り返し呼んできては、ケーブルプライスをチェックしているある中東の銀行がいました。
そして、午後一番で再び呼んできました。アシスタントが「ケーブル25本(25百万ポンド)のプライスを聞いてきています」と言うので、すぐにプライスを出し先方は買ってきて取引は成立し、アシスタントが先方と取引の確認をしていましたが、続けて「また25本聞いています」と言うので、またプライスを出したら、すぐ取引成立。そして「また25本聞いています」とアシスタントの声も上ずってきました。
プライスを出している私の方も、どうも様子がおかしいと思い出し、他のアシスタントに、昨日D/Dを約束したばかりの銀行も含めて、呼べる銀行は内外問わず呼べるだけ呼べと指示し、相手の銀行がプライスを出せば、片っ端から買っていきました。
方や、例の中東の銀行は、相変わらず、プライスを出せば買ってきて、さらに次のプライスを求めてくる状態が続き、もともとから中東の銀行に関わっている例のアシスタントに、今まで何本叩かれているのか訊ねると、ディーリングマシンの取引画面が小さすぎて、スクロールしてもわからなくなっており、もうこれくらいのポジションになっているだろう目算するしかない状況になっていました。
この時のケーブルは、東京の華「ドル/円」を差し置いての一日天下で、その騒然とした雰囲気にバックオフィス(後方資金決済事務)の女性達や、保険のおばちゃん(当時はまだディーリングルームに入れました)までが見物に来ていたほどでした。
結局、その中東の銀行は5億ポンド買って帰っていきましたが、かわいそうなのは前日D/Dをお互いやろうねと約束したばかりの銀行のディーラーで、私のいた銀行から、立て続けに何回もプライスを聞かれて叩かれては値が吹き飛ぶしで、途中で気分が悪くなって、保健室に行ってしまったと後で聞かされ、すまないことをしたと思いました。
もうひとりかわいそうだったのは、もともとからその中東の銀行に関わってしまったアシスタントで、私に付き合われて、結局、ポジションが合った午前3時まで残っていました。
この一件もまた、今思い起こせば懐かしい思い出です。
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